「続けた人」にしか見られない世界

ナーランダ出版・寺町商店担当の志保です。
30℃を超える暑さと、決まって起こる激しい夕立で、体も心も調整が難しい今日この頃。いかがお過ごしでしょうか?
あなたは、長年「続けていること」はありますか?
私がかろうじて続けてきたことといえば、ダンスでしょうか。離れていた時期もありましたが、10代の頃から始めて40代となった今もなお続けています。
そんな私が強く思うことは、どんな世界にも、「続けた人」にしか見られない世界があるのではないか、ということ。
仏教の言葉に、熟練の末に味わえる面白みを指した「醍醐(だいご)」という言葉があります。醍醐とは、牛や羊の乳を発酵する段階(五味)の一つで、最も美味な味のものを指します。
しかし、「やればできる」というほど物事は単純ではなく、長い停滞時期を迎え、はいつくばって、ようやくほんの少し前進することもあります。それでも、辛抱する根気を失わなかった人だけが到達できる世界があるように思うのです。
寺町商店で、その道の「プロ」と呼ばれる方に会えば会うほど、その思いが強くなっていきます。
その特別な世界は、時に「言葉」となって姿を表します。到底私では繰り出せない言葉が、プロの口から飛び出した瞬間、思わずハッとさせられるのです。
「善いものを作るには、とにかく時間がかかるんや。」
御年86歳の萬古焼(ばんこやき)作家の伊藤実山さん。約60年にわたり、萬古焼一筋で作品を作り続けてきました。
粘土をろくろにセットするやいなや、次々と急須の各パーツが練り上げられていきます。全パーツが練り上がるまでに、正味10分もかかりません。
あまりの早さに驚きが隠せず、「こんなあっという間に出来上がるのですね」と漏らすと、すかさず実山さんはこうおっしゃいます。
「ここまではすぐにできるんやわ。ここからが長い」と。
その言葉通り、乾燥・焼き・磨きなどの工程をへて、そこから数ヶ月をかけてようやく急須が完成します。
「磨き」を繰り返し、蓋と本体がぴたっと合うように作る。ここがとても難しいと噛み締めるようにおっしゃいます。数ミリ単位の微調整を、手の感覚ひとつで詰めていくのです。
(手が加えられるのを整然と待つ急須)
「善いものを作るには、とにかく時間がかかるんや。」
にこっと微笑みながら話す、実山さん。
この言葉を聴き、「実山さんには、60年を歩んだ人にしか見えない世界が見えている。」そう確信しました。
そして、60年は、必要不可欠な時間だったのだと。
今もなお「萬古焼の道」を前に前に進む実山さんに、私たち若輩者がどう生きるか、その背中で教えていただいたように思います。
それ以来、「私も熟練の世界をどうしても見てみたい」そう思いながら、寺町商店の番頭として、またダンスを志す者として、日々奔走しています。
あなたは、どんな熟練の世界を見てみたいですか?
◉実山陶苑&おわんのささうら|「お茶を愛でる」茶器4点セット
三重県四日市市が発祥といわれている「萬古焼(ばんこやき)」。
今では珍しくなった、「ろくろ」による手作りで作品を作る、「実山陶苑(じつざんとうえん)」の伊藤実山さんの茶器に、寺町商店でお馴染みの「おわんのささうら」の笹浦裕一朗さんのお盆を加えた、茶器4点セットです。
「健康であれば作れる」
シンプルながら、深みのある言葉を屈託のない笑顔で授けてくださった実山さんの希少な作品です。
どうか、みなさまとご縁がありますように。
⭐️「茶器の使い方」は、以下の動画をご参考ください。